君の右上
俺には同じクラスに好きな人がいるが奥手ゆえ今日もただ控えめに見つめるのみ。
君は目線を教師の方へ向け話を聞いている。
授業中に絶対寝ない。真面目で素晴らしい。俺も見習おう。
そうして俺も授業に集中していると、終礼のチャイムが鳴った。早いものである。
休み時間、君は友達と談笑している。笑顔が爽やかだ。俺には到底真似できない良さがある。
もし彼女がアイドルになったらあの笑顔に皆虜になるのだろう。いや待てよ、アイドルにはならないで欲しいかもしれない。あの可愛さは俺だけに留めておきたい。
「これは完全に何か考えてるね」友人が急に視界に入る。
友人は続けた。「人って何か考え事してる時は目線が右上にいくんだってさ」
「別になんにも考えてないよ」と言ってみたが、友人は「それはそれでどーなのさ」と呆れたように言ってきたのでほんのり後悔する。
授業開始5分前のチャイムが鳴ると友人は自分の席に戻っていったので俺は先程の考え事を続けようとした。
だが冷静になるといくら彼女が可愛くても突然アイドルにはならない気がして、なんだか考える気は失せたのだった。
彼女は看護師になるという夢があるのだから俺はそれを黙ってこっそり応援しておけばそれでいい。
その次の休み時間、俺は彼女が右上を見ながらため息をつくのを目撃してしまった。
それからというもの、彼女が何を考えていたのかが気になってしょうがない。彼女は何かに悩んでいたように見えた。俺には。
人間関係、進路、成績、考えられることは色々あるけど俺はある一つの可能性が頭が離れなかった。
そう、恋愛である。
昨日フラれたのかもしれないし、好きな人のLINEの返信が遅いのかもしれないし、恋と友情の板挟みを食らってるのかもしれない。
少なくとも俺みたいに好きな人がアイドルになる妄想を広げているわけではないだろう。
一日中考えて本当のことは何もわからなかったけど一つだけ明らかになったことがある。
俺は、彼女に俺以外の男を考えて欲しくない。
彼女が他の男を考えているのだとしたらとても嫌だった。純粋にまっすぐな気持ちで嫌だと思った。
彼氏でもないのにおこがましいかもしれないがどうしても嫌なんだ。
今までなかなか話しかけることが出来なかった。緊張するし、何を話せばいいのかもわからない。
でもそんなことを言っている場合ではない。
君の右上に他の男がいることで君がため息をつくなんてことあってほしくない。
俺だったら君にため息なんてつかせない。
だから今すぐ話しかけて、いずれは君の右上を俺だけのものにするのだ。
こうしちゃいられない。そう思って俺は彼女のDMにこう送った。
「どしたん話聞こか?」